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セカンドハーベストへの疑問

更新日:2021年10月24日



1.一枚の「請求書」


2017年11月15日、私はセカンドハーベスト・ジャパンから以下のような「請求書」を受け取った。(後記:12月5日、正式に以下の画像の「四半期額」は「年額」の間違いであるとの連絡を受け取った)


  • 更に後記:12月19日、本稿の続編「地域から発想するフードバンク ー「八王子モデル」は拡散可能か?」を公表した。



場所は、台東区いきいきプラザ。セカンドハーベストが開催する「説明会」の席である。


既にプレアナウンスはあったので「請求書」自体には驚かなかったが(*1)、この説明会で私が感じたのは、ある種の怒りにも似た苛立ちだった。

お名前は存じ上げない。おそらくはセカンドハーベスト内部で指導的な立場の方の説明を聞きながら「何を的はずれな説明に時間を費やしているのか?」との思いを禁じ得なかったからだ。

私を含めた、この席に集まっている全ての人々は「あなた方が書いた(不十分な?)文書の逐語的な解説を拝聴しに来たのではない。そんなものは、後で読めば済むことだ。問題は、この文書が生まれた背景と説得的な説明だ」と思っていたのではないだろうか。


しかし、彼の説明を聞きながら、徐々に私が感じ始めたのは、内容に関わるというよりもむしろ、その「内向性」だった。

この人は、セカンドハーベストという組織内部でのみ議論してきたことを、いわば勝手に我々に対して前提し、その結果だけを淡々と語っている。あたかも、一方的に「通告」するかのように。

彼の目に、果たして、我々は見えているのだろうかとさえ感じながら、私は、あの席に座っていた。サラリーマン時代に、この種の官僚的な答弁を何度も聞いてきたことを思い出していた。


社会的な事業といえども、その持続可能性を担保するためには、事業的に自立しなければならない。

まさに、この一点で、私も現在進行形で苦闘している最中である。問題は簡単ではなく、果たして解決するのかどうか、依然として確信を持てないままに走り回っている。

この点で、セカンドハーベストが我々以上に、その持続可能性を担保する必要があるのは自明であり、どこかで「収益」(*2)を確保する必要性について、私には何も異論はない。

しかし、今回の手法については、あたかも「タコが自分の足を喰っている」ようなもので、一部の余裕のある団体(例えば社会福祉法人)以外に支払い能力はないであろう。

もちろん、フードバンク八王子も例外ではない。


ただし、深読みすれば、次のような意図もあるのかもしれない。

そもそも、こういった団体に支払い能力があるはずもなく、そんなことは百も承知の上で、彼らにこのような「請求書」を突きつけることで、所属地域の行政や関連団体に対して悲鳴を上げ、それが何らかのアクションへと繋がり、結果的に、セカンドハーベストに好都合な流れが生まれるかもしれないとの(ずいぶんラフではあるが)戦略的な視点である。


フードバンク八王子は、しかし、セカンドハーベスト側の意図を忖度することなく、今回の問題をトリガとして、八王子市へ対して「フードバンクは地域社会にどのように位置づけられるべきか?」という包括的な問題を投げかけてみたいと思っている。


2.「運営協力金」とは何か?


セカンドハーベストの説明会の席上でも発言したが、私は、およそ以下のような疑問を持っている。


  • 彼らの言う「運営協力金」という概念は、実は「転売」と紙一重ではないか?(そもそも彼らは取引先食品企業から同意を得ているのか?)

  • 彼らの考え方が成り立つならば、我々も困窮者から(転売ではないとして)「運営協力金」を徴収してもよいのか? (例えば一年前、我々がこの「用語」を編み出して実行すると宣言したら、セカンドハーベストは賛同したか?)

  • この「運営協力金」の算定金額は量に比例するとのことだが、だとすれば、積極的な活動を抑制せざるを得ず、これはセカンドハーベストの理念とも矛盾するのではないか? (これは単純だが重大な論理矛盾で、この程度のことに気が付かないほどセカンドハーベストの判断能力には問題があるのか?)

  • 最も影響を受けるのは、他ならぬ困窮者であり、この点について、どのように考えているのか?


彼らの回答は、上記のどの疑問についてもクリアなものではなかった。

しかし、いずれにせよはっきりしているのは、セカンドハーベストは、もはや「タダでは動かない」ということである。


もう一点、今回のセカンドハーベストの手法には、重大な問題がある。

もし仮に、今回の提案を各施設・団体が(自治体も含めて)受け入れたとしても、彼らは今後、セカンドハーベストへの依存度を低下させる方向に動くだろう。

今回の件で、セカンドハーベストは「突然、何を言い出すかわからない団体」と認定され、その結果、一種の外部リスク要因として位置づけられるからだ。リスクは削減されなければならない。

これは、果たして、日本最古・最大のフードバンクとして、セカンドハーベストが望んでいる未来だろうか?


3.地域自治体の動向


実は、私が今回の説明会に出席する少し前に、セカンドハーベストは東京都内・近郊の自治体に対して、以下のような「負担金」の提案を行っている。



この「負担金」の提案を受けて、各自治体は、おおむね困惑しているとの情報を得ているが、具体的な反応は様々らしい。

あっさり「では、今後お付き合いはしない」と宣言した自治体もあれば、そもそも内部で正式にアジェンダ・セッティングする方法そのものに苦慮しているところもある。

それほど、あるいは、依然として、フードバンクという活動は、地域行政内部では明確に位置づけられていないのである。(また、セカンドハーベスト側の具体的な提案内容や、その形式にも問題がある)


我が八王子市も例外ではない。

ここには様々な問題があるが、結論として、八王子市が上記の「負担金」を予算化することは非現実的である。

そもそも、行政に対して「来年度の予算化」を要求するのに、前年度の夏場に交渉をスタートして間に合うと思っているのだろうか? それは「金額」の問題ではない、ということがわかっているのだろうか?


私には、吹き出すような思いがある。

なぜ、セカンドハーベストは、その程度の戦略すら描けないままに、つまり「自分たちの内部にだけ目を向けた内向性」全開の状態で、現実の「相手」をしっかりと見つめる基礎作業を怠っているのか?


従って、来年度の八王子地域でのフードバンク活動については、高い確率で次のようになるだろう。


  • 自治体として支払えない ので、困窮者に対して、少なくともセカンドハーベスト経由の食糧支援はなくなる。

  • フードバンク八王子としても支払えない ので、上記と同様。


そうすると、八王子市(特に自立支援課)と我々が「これまで支えてきた人々はどうなるのか? 」という問題が発生する。

しかし、この問題を考えるための前提となる定量的な把握と幾つかの解決策の検討は、ここには記載しない。内部での結論として、どうしようもなく上記の「穴」は開く、これを埋めることは極めて難しいということだけ付言しておく。


4.地域社会とフードバンク


今回のセカンドハーベストの行動(どうしても「軽率な」という形容詞を付けたくなるが)を通じてあぶり出されてきたのは、実は、より本質的な問題である。

つまり「フードバンクというものを地域社会にどのように位置づけるか?」という問題である。これが、ただの民間団体の慈善ボランティア活動に過ぎない、という判断で終わるのであれば、活動停止したとしても、それだけの話である。

しかしながら、もし仮に、フードバンクという存在が、安心して暮らすことができる地域社会に不可欠なインフラ(フード・セキュリティ)と認識されるのであるならば、つまり、フードバンクが地域社会のギリギリのセイフティーネットになるべきであるならば、今度は逆に、何らかの仕方で地域社会全体がフードバンクを支える仕組みが必要になるだろう。


しかし、その仕組みとは具体的には何か?

地域行政がフードバンクに対して補助金でも与えればよいのか?

あるいは、セカンドハーベストが選択したように「自分たちが食料を提供している先からお金を取る」べきなのか?

私は、両者とも、間違っていると思っている。少なくとも、この問題は単純ではないのだ。


そもそも、フードバンクとは何か?

多様な定義が可能であろうが、私は、その核心にあるのは「影の食料流通機構」だと思っている。

通常の意味での食料流通機構を「表の食品流通機構」と呼ぶならば、その背後に(「寄生して」と付加したくなるが)、食品ロスの削減という目的を困窮者支援という社会的課題と結びつけたもう一つの(つまり「影の」)食品流通機構が、フードバンクという活動の本質的な骨格を形成しているのだ。

つまり、本来、フードバンクとは「流通機構」なのである。


この視点から見れば、一般の人々の目に触れやすい「食料配布(パントリー活動)」や「食料寄付所(フードドライブ)」などは、一種のアプリケーションに過ぎず、その背後で、こういったアプリケーションを支えているのは、この流通機構としてのフードバンクなのである。

流通は一般の人々の目に触れにくい。しかし、これがバックグラウンドで動脈として機能しなければ、上記のような「人目につくアプリケーション」は本質的に機能できない。この意味で、フードバンクとは一種のオペレーティング・システムと呼ぶことさえできるはずだ。


以上のフードバンクに対する理論的な視点が、もし仮に適切なものだとしたら、実は、セカンドハーベストが、本来、何を目指すべきかも自ずから明らかになるのではないか?


元々、セカンドハーベストは、既に充分に独自の位置を占めている。

それは、一言で言えば「食料流通のセンター機能」であり、この点で、我々フードバンク八王子のような「地域に特化した末端フードバンク」とは明確に位置づけを異にしている。

だとすれば、セカンドハーベストは、この視点で、従来事業の選択と集中を行い、事業を再編し、そのプラン構想を整理して、いろいろ脇を固めた上で、広域行政に対してしぶとく継続的に「提案」すべきではないのか?


ここには「官民連携の新しいあり方」を構築する可能性さえあるからだ(*3)。

それは、ただ単に、税金を引っ張るためではなく、あるいは「タコが自分の足を喰う」のでもなく、官民連携した「収益事業」としてセカンドハーベストの事業全体を新たに再構築するのである。


セカンドハーベストが、このように「センター機能」に特化していけば、我々「末端の地域フードバンク」の位置づけも、それと平行して明確になってくる。

例えば、フードバンク八王子は、センターとしてのセカンドハーベストに対して食品配布などの地域拠点として位置づけることができる。

実は、フードバンク八王子の場合、最初からこのような関係をセカンドハーベストとの間で構築しているのだが、なぜ、彼らセカンドハーベストは、このような「セカンドハーベストにとっての地域拠点」を東京都内に積極的に展開・構築しないのか?

ここで「積極的に」というのは、地域の自生的な活動グループの自発的な訪問を、ただ単に「座して待つ」のではなく、自ら積極的に地域行政や活動グループとネットワークを結び、この地域拠点の設立を支援することである。

もう一度、書く。なぜ、彼らは、積極的に地域へと足を伸ばさないのか?


私が、二年ほど前に、初めて秋葉原にセカンドハーベスト代表のチャールズさんを尋ねた時、彼は非常に印象深い話をしてくれた。

今も思い出す。大きな両手で豊かなジェスチャーを交えながら、彼は言った。

「提供してくれる食品企業は、たくさんあります。待ってもらっているくらいです。だけど、その膨大な食品を提供する先が」と言って、彼は大きく広げた両手を合わせてギュッと絞り、首を振りながら嘆息した、「ないのです」。

もちろん、食料に困っている困窮者は膨大に存在する。彼が指摘しているのは、その膨大な困窮者に届けるための「中間支援組織」がない、ということなのだ。

しかし、この「中間支援組織」こそが、我々フードバンク八王子のような地域に特化した末端フードバンクではないのか?

なぜ、彼らは、この種の地域拠点を積極的に展開・開発しないのか?

このような状態で、年間何十万トンもの食品取り扱い量を目標に掲げたとしても、一体どのようにして、彼らセカンドハーベストは、この高らかに公言した自らの目標を達成するつもりなのか?


以上を踏まえると(極めて余計なお世話であろうが)、現在のセカンドハーベストが構想すべき事業の再編成プランの骨子は、おそらく、次のようになるだろう。


  • 今後、セカンドハーベストは、自ら直接受益者(受益団体)に配送することはしない。直営パントリーも閉じる。

  • セカンドハーベストが直接結びつくべきは「中間支援組織(地域行政を含む)」であって、彼らを経由して、受益者に食料を提供する。

  • そのためにも、セカンドハーベストの重要な戦略的事業は地域拠点としての「中間支援組織」の構築と支援になる。

  • 更に「中間支援組織」との物流を効率化するためにハイレベルな情報システムを構築する。


つまり「セカンドハーベストはセンター機能に特化して、地域拠点との重厚なネットワークを構築する」ということに他ならない。

これ以外に、あろうか?


私は本稿で、繰り返し、今回のセカンドハーベストの行動に対して「タコが自分の足を喰っている」という表現をした。

その意図は、もはや明らかであろう。

窮すれば、タコも自分の足を喰わざるを得ないかもしれない。

しかし、そこに至るまでに、まだやるべきことがあるのではないか?


  • 本稿の続編として、地域のフードバンクのあり方により踏み込んだ「地域から発想するフードバンク ー「八王子モデル」は拡散可能か?」を公表しました。どうか、ご覧頂ければ幸いです。


<本文への註>

(*1) しかし、とはいうものの、さすがに「四半期20万円つまり年額80万円」という金額には驚いたことを正直に告白しておく。ところが、説明会の席上で、どうやら、これは記載ミスらしいとの話が出た。ここで「らしい」などと曖昧な表現をするのは、セカンドハーベスト側から正式な修正アナウンスを(現時点でも)聞いていないからである。私は思う。そもそもこの種の「請求書」にミスがあること自体驚くべきことだが、仮に間違えていたとすれば一刻も早く、その訂正版を正式に再送付するのが「ビジネス社会」の常識であろう。彼らは「お金を請求する」ということが、どういうことか、わかっているのであろうか? 以下でも触れるが、この種の余りの「脇の甘さ」に、私は強い苛立ちを感じている。セカンドハーベストは、私に入り口を開いてくれた尊敬すべき大切なパートナーなのである。

(*2) この「収益」とは、必ずしも、通常の会社組織のように利益追求を前提とするものではない。経費は必要であり、社会貢献事業といえども「カスミを喰って生きていく」わけにはいかないのである。念のために書いておくが、NPO組織は法的に利潤を追求することが認められている。この点は、社会的課題を担う事業体構築や、何よりも評価の際に、もっと考慮されるべきであろう。

(*3) しかし、彼らは既に「官」を敵に回した。極めて残念なことである。フードバンクの本質が、私が示唆したように「流通機構」であるならば、これは一種のインフラ事業であり、しかも困窮者支援と接続する点で、どう転んでも行政との連携は必須なのである。

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